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次の日。
バイト中、香は何度も寛太郎の横顔をチラチラと盗み見た。
隙を見つけて、昨日の話をしようと思っていたのだ。
チラチラと寛太郎を見ている香に気づいて、殴られたのか?と思うほどの青いアイシャドーの吉田さんが耳打ちした。
「あんた、仕事に集中しれ!」
しれ!って……と、香は思いながらも黙って頷いた。
いつもなら、いくらでも暇がある喫茶店だったが、なぜかこの日に限って客が途切れない。
理由はわからないが、そのせいで香は寛太郎とどころか吉田さんともまともに話せず、1日の仕事が終わってしまった。
仕事が終わり、気付いたときには寛太郎は先に帰ってしまっていた。
吉田さんが言うには、急いでいたのだそうだ。
香は1人、電車に乗ると真っ直ぐに自宅へと帰ることにした。
この電車というのは、函館では路面電車のことをさす。
JRは汽車という。
電車の中は空いていた。
降り口に近い席に香は座った。
香以外に乗客は10人いるかいないかくらいだった。
シーンとしている車内、香は寛太郎のことばかり考えていた。
一目惚れして付き合ったのはいいけど、寛太郎は知れば知るほどわからない男だった。
昨日だって、イカレンジャーになればいいって意味がわからなすぎる。
明日、あのスナックに行けばわかるのだろうか。
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