第1話 出会いは春風に乗ってやってくる!

13/18
前へ
/99ページ
次へ
次の日。 バイト中、香は何度も寛太郎の横顔をチラチラと盗み見た。 隙を見つけて、昨日の話をしようと思っていたのだ。 チラチラと寛太郎を見ている香に気づいて、殴られたのか?と思うほどの青いアイシャドーの吉田さんが耳打ちした。 「あんた、仕事に集中しれ!」 しれ!って……と、香は思いながらも黙って頷いた。 いつもなら、いくらでも暇がある喫茶店だったが、なぜかこの日に限って客が途切れない。 理由はわからないが、そのせいで香は寛太郎とどころか吉田さんともまともに話せず、1日の仕事が終わってしまった。 仕事が終わり、気付いたときには寛太郎は先に帰ってしまっていた。 吉田さんが言うには、急いでいたのだそうだ。 香は1人、電車に乗ると真っ直ぐに自宅へと帰ることにした。 この電車というのは、函館では路面電車のことをさす。 JRは汽車という。 電車の中は空いていた。 降り口に近い席に香は座った。 香以外に乗客は10人いるかいないかくらいだった。 シーンとしている車内、香は寛太郎のことばかり考えていた。 一目惚れして付き合ったのはいいけど、寛太郎は知れば知るほどわからない男だった。 昨日だって、イカレンジャーになればいいって意味がわからなすぎる。 明日、あのスナックに行けばわかるのだろうか。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加