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香は自分の悩んでいることの、どうにも掴みどころのないしょうもないことに気付いてはいたが、悩まずに入られなかったのだった。
人が乗り降りして、目的地に少しずつ近づいていく電車。
ネオンで街が明るくなり、電車は心地よい揺れを産んだ。
外より明るい電車内が、鏡のような真っ暗な窓に映っている。
そこに映る自分の顔を香はじっと見つめていた。
何気にケータイを開いたら、ちょうど寛太郎からメールが来た。
明日、家まで迎えに来るという。
それも昼間。
スナックなのに昼間行っていいのだろうか。
そんな小さな疑問にも、香は顔をしかめていた。
電車を降りて冷たくなった風に頬を打たれながら、香は家までの短い距離を俯きがちに歩いた。
元町は観光地だが、この時期には観光客は少ない。
擦れ違うのは仕事終わりの疲れきったサラリーマンと、部活帰りの学生ばかりだ。
みんな、きっと色んなことで悩んでるんだろうなと香は思った。
自分の悩んでいることの、小さくくらだらないであろうことに香は更に顔を下に向けてしまうのだった。
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