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彼女になったとはいえ、何かが変わったかというと何も変わらなかった。
バイトは7時に終わる。
結構早い時間に終わるわけだ。
23歳の香と26歳の寛太郎。
若い2人だから、当然バイト後に遊びに行っちゃったりすると思うところなのだが、どうもそうじゃない。
寛太郎は、バイトが終わるとそのまま帰ってしまう。
ご飯でも行こうって誘っても、行くところがあるって断られてしまうのだ。
バイトのない日もそう。
だいたい遅くても8時くらいにはバイバイしている。
香は不安だった。
だってそうでしょ?
イケメンで好青年の寛太郎。
モテるはずだもん。
浮気してるんじゃないかしら??
不安で不安で仕方がなかった香は、ある日意を決して寛太郎を問い詰めた。
「いつもどこにいってるの?浮気してるんじゃないの?」
営業中の店内に、香の声はよく響いていた。
常連のおじちゃんが驚いてスプーンを落とした。
「ちょっと香ちゃん!!何してんの?!加賀谷さん、ごめんね~。」
慌てたように、真っ赤な口紅の吉田さんが常連さんに謝って、香を裏に引っ張った。
それに寛太郎も続いた。
「何があったんだか知らないけどさ~、お客さんいるときにやめなさいよ。」
前歯に口紅をつけた吉田さんは呆れたように言うと、香たちを残して店頭に戻って行った。
寛太郎がオドオドしながら香を見ている。
「そんな風に思わせてたんだね……ごめんね、心配させて……。
今日、仕事終わったら香も一緒に行こう?」
香はとりあえず頷いて、目も合わさないで店頭に戻った。
ソバージュヘアーの吉田さんが、常連の加賀谷さんと楽しそうに話していた。
下世話な話で盛り上がってる。
いつものことだけど、この日はそれが苦痛でしかたなかった。
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