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父が食卓を見回しながら言う。すると母は少し機嫌が悪そうに溜息をついた。 「ああ、機嫌損ねちゃってね。あとで一人で食べるんだってさ」 母は淡白に言い捨てると、おかずもなしにご飯をぱくぱくと口に放り込んだ。 「…そうか」 それを改めて聞いた俺も、あからさまに溜息をつく。 うちの祖母・夏子は、なんというか…意地っ張りである。 はっきり言って、家族仲は良いとは言い切れない。 …まあ、こういう話はよそう。今日はせっかく楽しい話で盛り上がってたんだから。 俺がそんなことを考えていると、そういえば、と母が思い出したように話し始めた。 「千幸ちゃん…受験どうするのかな」 「……」 ――仁藤千幸さん。俺のひとつ上の3年生の先輩で、ご近所さんだ。 実は以前、千幸さんはちょっとした『心の病気』で入院したことがあり、退院したあとも調子が戻らず、今も自宅療養をしているらしい。 もっとも、学校はしばらく休んでいるし、お見舞いに行っても「調子が悪いみたいだからまた今度…」と義母親に何度も断られているので、その様子は噂でしか聞くことができないけど…。
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