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偶然、事を遠巻きに見ている主婦たちの会話が七瀬の耳に入ってきた。
「新史くん、さっき救急車で運ばれてったけど……」
「でも阿部さんが言うには、仁藤さんのところの玄関の前で倒れてたって言うじゃない。手遅れじゃなきゃいいんだけど」
その言葉に反応して玄関らしき場所に目をやる。
群がる野次馬の隙間から見えるそこには、おびただしい黒い染みが広がっている。
それは多分……。
「――っ」
全身にぞわぞわと悪寒が駆け巡る。同時に嫌な予感もしていた。
現場は千幸さんの家の前。今日は日曜日。しかも千幸さんは自宅療養中――。
「……」
ざわざわと胸の辺りが落ち着かない。
いや、まさかそんなことあるはずないじゃないか。千幸さんはああ見えて強いし、物怖じしないタイプだし……。
きっと大丈夫。だって、新史さんがお見舞いに来て胃潰瘍とかで倒れちゃったのかもしれないでしょ……。
しかし、そんな七瀬の自己暗示も、現実の前では無力だった。
「そういえば千幸ちゃん、ついさっき亡くなったって」
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