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あれは……。
「すみませっ……千幸、千幸! ちゆ――」
つまづきそうになりながら野次馬を掻き分けて進む女性は、千幸さんのお義母さんだ。
仕事先から飛び出してきたのだろうか、職場の制服らしきエプロンをつけたままだ。
やがて深幸さんは背広を着た男性とともに、物陰に消えていった。
…………そして。
「千幸……ちゆ、きっ……、ぅ……うあああぁあぁっ!!!」
野次馬の中から、深幸さんの慟哭が響く。
その悲痛な叫び声が、俺に残酷な現実を突き付ける。
――3月1日。
それは全ての序章に過ぎなかった。
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