227人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
俺はどうも千幸さんが死んだという実感が湧かず、皮肉なことにあれから涙は一滴も零れなかった。
――事件の翌朝、学校に行くと、校門近くは騒然としていた。
いや、この学校に校門はないので、正確には駐車場周辺とでも言っておこうか。
とにかく、どこから嗅ぎ付けたのか、マイクやカメラを担いだジャーナリストの皆様方がご丁寧にお出迎えだ。
俺は今さら驚かない。家の近くでも同じような現象が起こっていたから。
人間の好奇というものにはつくづく呆れる。
学校に行くやいなや、生徒の大半は事件の話題で持ちきりだった。
しかし俺たちは一切その話題には触れず、いつも通りくだらないやり取りをしていた。
俺らのメンバーには、被害者である新史さんのいとこ――愛美がいる。
たぶん皆もそのことを気遣って、わざと話題を避けたのだろう。
俺も、事件のことを蒸し返されなくてほっとした。
.
最初のコメントを投稿しよう!