FILE.1「疑惑」

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「彼氏ができた、って。……新史さんっていう名前の」 「んー、そうですか。何か言ってましたか? 例えば、彼氏とうまくいっていないとか」 まさか、死んだ千幸さんを疑ってるのか? 俺はその言葉に少しカチンときて、強めの口調で断言した。 「そんなことありません」 「……そうですか」 後ろの若い男性は、相変わらず干渉せず、ひたすらメモをとり続けている。 その後も、俺は知っている限りの情報を彼らに話し続けた。 中年の男性は唐突に身を乗り出す。 「じゃあ、これは一応聞くけどね。昨日のお昼頃から夕方まで、安西さんはどこにいたの?」 「……家で昼寝をしてました」 無力感と自分の呑気さが恥ずかしくなって、うつむきながら答えた。 「それを証明できる人は?」 「いないです。家族はみんな出掛けてましたから……」 「その時間は『誰にも会ってない』んですね?」 今まで淡々と話していた彼が急に慎重に念を押してきたので、俺は怪訝に思って眉を潜める。 「……はい、そうですけど……」 .
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