FILE.1「疑惑」

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タナベは溜め息混じりに声を落とした。 「……それは本当なんですか?」 「たぶん……な。さっき連絡があった。凶器の包丁から、安西七瀬の指紋が出たらしいよ」 ふっ、と一瞬、脳裏にあの光景が過る。 ――土の湿ったにおい。 騒然とする人だかり。 まるで夢を見ているような。 視覚と思考がうまくリンクしていない浮遊感。 玄関に広がったシミ。 包丁。新史さんを殺した包丁。 その包丁に……指紋? 俺の、指紋? 触ってもいない物に、なんで俺の……。 俺は意味がわからず、鈍りかけた脳の回転を急かす。 「でも、指紋が出たからって被疑者だとは限らないじゃないですか」 息を荒げる若い男――ヨコヤマを、タナベは「まぁまぁ」となだめる。 「まぁまぁ、落ち着けって。誰もそんなこと言ってねぇよ。あくまで可能性があるってだけだから。な? それにお前、指紋だぞ、指紋。『あの一件』で『上』も敏感になってるみたいだけど、本当なら任意で引っ張るとこなんだからな?」 「それは……そうですけど……」 .
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