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「分かったんなら次、真中橋」
タナベはやけにトーンを高くして掛け声を上げる。ヨコヤマは不満げに「はい」と小さく返した。
すると空気を変えようとしたのか、「んー、安西にゼンレキなんてあったかなぁ」とタナベが独り呟く。
ばた、ばたん、と車のドアを順番に閉める音が庭にこだまする。
騒がしいエンジン音が聞こえると、タイヤは庭の砂利をカラカラと踏み、やがて車体が風を切る音はだんだんと遠ざかっていった。
俺は息をするのも忘れていたようで、立ち上がった途端、目眩に襲われる。
喉から飛び出しそうな心臓を静めようと、息を吸う。いつの間にか手には汗が握られていた。
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