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一見、肯定に見えるそれが、俺の立場を不利にすることは目に見えている。
でも――
『新史っていうんだ。藤堂、新史』
『いいヤツだよ、ほんと』
――何かモヤモヤとした塊とどうしようもない悔しさが喉につっかえて、俺はいつの間にか叫んでいた。
「だけど俺は、千幸さんの彼氏を……幸せを奪うことなんか絶対にできないっ! そんなことするもんかッ!!」
あんなに優しかったのに、あんなに努力してたのに、あんなに幸せそうだったのに!
なんで千幸さんが死ななきゃいけなかったんだよ! こんなところで、こんな幸せなときに!
しかも彼氏まで殺されて――おかしいだろ?!
なんでだよ! くそくそくそッ!!!
激情に目頭が熱くなり視界が霞む。
悲しみや悔しさが、今になって急に込み上げてくる。
泣いちゃだめだ。大勢の野次馬やアヤたちに涙を見られたくない。
分かっているのに、じわじわとわき上がる涙を止められない。
「あ、七瀬!」
俺は行き場のない悔しさに任せて、その場から全力で逃げ出した。
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