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…俺の失言で、気分を悪くしてもいいはずだ。俺なら怒って帰る。そこまでしないにしても、嫌な顔をするに違いない。
なのに、こいつらはそんな素振りは一切見せない。それどころか、気にするなと笑い飛ばしてみせた。
こういうのを余裕と言うんだろう。みんないつの間にか大人になっていく。…そう考えると、恥ずかしさと多少の劣等感を覚えずにはいられなかった。
「…じゃ、そろそろ帰るか」
「え?! 有璃、もう帰るの?!」
背を向ける有璃に愛美は驚いた様子で言った。
「すまんね七瀬、俺らはこれから用事があるんだ。…そうだろ、愛美?」
「え? …あ、うん……」
愛美はそのことをすっかり忘れていたのか、有璃の問い掛けに歯切れ悪く頷く。
「そうなの?」
「うん、ごめんね七瀬」
「いいのいいの。プリントありがとね」
「ううん。七瀬もお大事に」
なんて言ってくれるのは愛美だけで、有璃はやはり怒っているのか、もう自転車にまたがってこぎ出そうとしていた。
愛美は俺と軽く挨拶を済ませると、しびれを切らして先に行ってしまった有璃の背中を必死に追い掛けていった。
俺はそんな二人を玄関から見送る。
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