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『エイプリルフール』
煙草に良く似た薬物の煙を灰の奥深くまで吸い込んで、私は四月一日の眠れない夜に嘘を見たのだ。
私は牛乳の香りがする平原の中で地面から這い出る蚯蚓を
雑草のように引き抜いては魚の顔をした牛もどきの動物に与え、合間合間にその牛もどきが垂れ流す乳を飲みこんで、ミミズに含まれる幻覚成分オリゴカクテンの作用によって嘘を見たのだ。
私は債権回収担当者で、アパートのドアを叩いた所、中から現れたのは下着姿のやせ細った一人の女で、如何にも骸骨のような風貌をしていたがその突きでた腰骨の曲線が妙に艶めかしく感ぜられ、玄関先で押し倒し、共に達した瞬間に嘘を見たのだ。
私はとある野良猫であり、悠々と国道を横切っていたが、車のタイヤ痕が私の体に深く刻み込まれた瞬間に嘘を見たのだ。
私が雲の上に座し下界を見下ろしていると、今まで愛していた女たちが羽衣を纏ってこちらにやってくるので、共に酒池肉林の宴を始め、一杯目の盃を空にした途端に嘘を見たのだ。
軍の空対地攻撃によって四散した家族の亡骸を拾い集める私は、己の信ずる神に嘘を見たのだ。
ただホワイトノイズだけが聞こえる胎の中から、恐ろしい程の苦しみを経て光の元に晒される私を見て、笑顔でいる母に嘘を見たのだ。
刹那の出来事、地蜘蛛に捕えられ土中の巣袋に引きずり込まれ、仲間の匂いすら追えなくなった私は暗闇の中に嘘を見たのだ。
私は心臓の停止に伴って肺から無意識に空気が漏れる音を聞いて私の世界に嘘を見たのだ。
四月一日の朝、眼を覚ました私は、煙草に良く似た薬物の煙を灰の奥深くまで吸い込んで、四月一日の眠れない夜に嘘を見た私の世界に嘘を見たのだ。
四月一日の朝叫んで飛び起きた私は四月一日の朝眼を覚まし煙草に良く似た薬物の煙を灰の奥深くまで吸い込んで四月一日の眠れない夜に嘘を見た私の世界に嘘を見た私の世界に嘘を見たのだ。
四月一日の朝。
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