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「それじゃ……」
彼女の涙声が携帯電話から聞こえていたが、僕は何も答えなかった。
何分経っただろうか。
受話器から聞こえてくるものは、ツーツーツーという機械音に変わっていた。
僕は携帯電話をおもいっきり部屋の壁に投げつけた。
激しい音をたて、いくつかの部品に分かれたそれが床に散らばった音がした。
もうどうだっていい。
何もかもが、どうだっていい。
腹の底で激しい感情が煮えたぎっている。
だが同時に胸の奥では、暗く冷え切った感情が胸を侵食していた。
「距離に……負けたよ……」
僕の独り言は、電気の消えた暗い部屋の中に消えていった。
「どうして……」
壁に背中をつけたまま、僕は床に座り込んだ。
そのまま体育座りの体勢のまま、時が過ぎ朝が来た。
次第に暗い部屋の中に薄い藍色の光が満ち始め、
僕の正面の壁にあるコルクボードに留められた写真もぼんやりと見え始めた。
僕は立ち上がり、酔っ払いのようによろけて写真の所へ向かった。
半年前の、新千歳空港で撮った写真。
二人とも笑顔だ。
今日の別れを知らずに。
僕は写真を片手で握り締めると、ゴミ箱へ投げ捨てた。
いびつに丸まった写真はゴミ箱の淵を2回ほど跳ねて、
諦めたかのように消えていった。
窓からは遠くに朝日が見えたが、
こんなに希望を感じない朝日は初めて見た。
半年前に二人で見た朝日は、あんなに輝いていたのに。
そう、半年前……
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