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3月の末までは、全ての休みを里美と過ごした。
いっぱい写真を撮り、色んな所へ出掛けた。
でも、旅立ちの日が近づくにつれて、お互いの口数は減っていった。
その不安を忘れるかのように、僕たちは何度も愛を交わした。
そして、その日が来た。
「もうすぐ搭乗時間だね。行った方がいいわよ」
里美が無理に笑顔を作って言う。
「ついたら連絡するね」
キャリーケースの取っ手を伸ばしながら僕が言った。
その時、僕は急に思い立って近くを通った航空会社の女性に声をかけた。
「はい、それじゃあ撮りますよ…はいっ!…押します!…はいっ!…いきます!」
その女性のシャッターを押すタイミングがつかめなくて、
僕たちは可笑しくて本当に笑顔になってしまった。
「この写真、向こうで写真に焼いて送るから、お互いの部屋に飾らないか」
「うん、絶対だよ」
最後に、油断している彼女のおでこに急に軽く口付けをすると、僕は搭乗口へ向かった。
後ろから
「もう、バカっ!」
という里美の声が妙に嬉しい。
そうしてその日から、僕たちの遠距離恋愛は始まった。
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