両兵衛

2/4
前へ
/89ページ
次へ
「水の如くあれ」 隣で書物を読んでいた半兵衛がふと呟いた。 「なんだそれは」 先日の戦処理に追われていた官兵衛が、筆を休めて寝転んでいる半兵衛のほうを向いた。 「ん?俺の好きな言葉『身は毀誉褒貶(きよほうへん)の間にあるも、心は水の如く清し』ってね。これって俺達にあてはまらない?」 半兵衛の口が弧を描く。 「何故だ」 官兵衛は端的に問う。この男は言葉が短く棘があるようにみえるだけでなく、肌は白色で血の気がなく、左頬が焼け爛れており、鷹のような鋭い目が本人が意識しなくても、人を遠ざけてしまう。一方半兵衛はその真逆であり、血色のある肌に、烏の羽のような黒髪に猫のように大きな双眸は傍目から見ると、どうみても子供である。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

368人が本棚に入れています
本棚に追加