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「いやいや、皆様方、いい方法がござるぞ」
部屋にいた一同が声のする方に、体をむけた。すると、そこには幼子を抱いた羽柴秀吉がいた。
「いやー遅れてしもうて、まっことすまんかった」
秀吉はいつもの笑みをつくると躊躇せず、上座へと進んだ。
秀吉が抱いていたのは、信長の嫡孫にあたる三法師で、この時わずか三歳であった。秀吉が上座に座ると、部屋にいる一同はさっと頭をさげた。
「うむ。先程から三法師様がわしと一緒がよいと言うものでの。このまま失礼させてもらう」
これも秀吉の猿芝居であった。事前に三法師に菓子を与え手なずけていた。子供にとって、自分に快を与える存在は善である。秀吉はまさに虎の衣をかりた。
「皆も存じておるように、この三法師様は亡き上様の嫡孫である。信忠様が身罷られた今、直系である三法師様が跡目に相応しいと存ずる。皆のもの、依存はないな」
「ははぁ! 」
一同頭を低くし、臣下の礼をとった。
「猿め・・・」
柴田勝家は、畳を凝視しながら、小さく呟いた。腸が煮え繰り返るほど怒りに奮え、今にも秀吉の喉笛を噛み切らん勢いであった。
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