2617人が本棚に入れています
本棚に追加
/365ページ
目を瞑って脳裏に出てくるのは、自分を優しく見詰めるあの女の顔。
優しい目をしているが、その奥に潜む狂った顔を、二度と時雨は見逃さない。
「絶対に許さない…」
許すことなどできない。
時雨は左目に掛かっている前髪を退けた。
右目を右手で隠し、空を見詰める。
何も映す事のないこの義眼は怒りや憎しみから離れさせ、時雨を無に近付けてくれる。
絶対に失敗は許されないのだ。
きっと、この機会を逃したら山田リカ子を殺す機会は巡ってはこないと、時雨は感じていた。
小さく、長く、ゆっくりと息を吐く。
嬉しさで興奮しそになるのではなく、怒りで身が震えるのを抑えるために自分を落ち着かせる。
もしかしたら、時雨はあんなに沢山の人を殺したのに、今さらながら人を殺すのが
怖いのかもしれない。
そう考えると、その“恐怖”をすんなり受け止められる気がした。
「今さら、怖いなんてね…」
自虐的に時雨は微笑んだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!