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時雨は何か言おうと口を開きかけたが、言葉が出てこない。
唇が震え、急速に喉が渇いていくのを感じた。
『雨乃ちゃん?どうしたの?』
受話器の向こうの優しい声。
不快で堪らない…。
停止しようとする頭を、時雨は必死で働くように命じ、ギュッと強く目を瞑った。
怒りに任せるのではない。
冷静に考えて、自らの耐えた年月の痛みと姉や失った命たちの思いを全てぶつけるのだ。
まるで、自分の内にいる第三者の声を聞くかのようにした。
「リカ子さん…?」
か細い声で電話の向こうの人物に声をかけた。
『雨乃ちゃん!!元気ないみたい…大丈夫?』
まるで、それまでいつも一緒にいたかのような口調で山田リカ子は言う。
「大丈夫!急に電話きたんだもん、ビックリした。」
つとめて明るく時雨は返す。
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