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「なに?」
振り返った時雨と、浅川の目がピッタリと合った。
「私の心は…何一つ晴れていないぞ…」
小さな声だったが、浅川は確かにそう言った。
浅川は、過去に娘を殺され時雨が復讐を申し出た人間だった。
そして、今の時雨になるまで援助した人間だと言ってよい。
時雨は溜め息をついた。
「当たり前じゃないですか、死んだ人間は戻って来ないんですから…。でも…」
顔を反らし、時雨は再び外を眺めて言った。
「犯人も、もういませんよ?それに、犯人が一瞬でも笑うことがなくなりました。」
そう言うと、時雨は今度こそ玄関に向かって歩き、消えた。
「復讐は…生きている人間の足掻き…。」
浅川は、フッフッと笑った。
「その通りだな。」
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