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「ああ、そうだ。」と思いたったように、朝食の膳を下げる家政婦を浅川は呼び止めた。
「どうかしましたか?」
家政婦がにこりと笑って聞いた。
「奥の客室、掃除して新しいシーツに変えておいてくれ。」
説明なしの唐突な浅川の言葉に家政婦は一瞬きょとんとしたが、すぐにまたにこりと笑って
「わかりました。」
と言って、膳を持って消えた。
長年、この家にいる家政婦は何も聞かずに了承してくれる。
「あんなに家へ来てたのに、あの子はつい最近まで会ったことがなかったのか…。」
庭を眺めながら浅川は一人呟いた。
朝日を浴びてキラキラと眩しい庭を見ていると浅川は無性に悲しくなった。
目の奧に焼き付いて消えない愛娘と愛妻の笑顔。
浅川はずっと時雨と娘を重ねていた。
否、時雨をもう1人の娘として見ていたかもしれない。
娘はあんな風に冷たい目を
していなかったから…。
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