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「あの…時雨は…?」
縁側でゆったりとお茶を啜る浅川をやや怒りの籠もった目で見ながら蓮は聞いた。
チラリとも浅川は蓮に目を向けることなく庭を眺めたまま、「寝てる。」と短く答えた。
「どうぞ、お口にあえば…。」
家政婦が浅川の横に蓮の分のお茶と和菓子を起き去って行き、
「座れば?」
とぶっきらぼうに浅川が言う。
「いえ、結構です。」
きっぱりと断る蓮に浅川は心の中で可愛くないと呟いた。
じっと自分を見てくる蓮に溜め息をついてから、浅川は口を開いた。
「少しあの子に時間を与えてやってくれ。山田リカ子を殺せなかったんだろう?」
浅川はそこで初めて蓮の方を見た。
何もかも見透かしたような、蓮を笑っているような、悲しんでいるような何とも言えない目をしている。
このタヌキ…。
蓮は盛大に舌打ちをしてやりたかったが、相手が相手なのでこらえた。
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