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空はオレンジから朱に、そして黒へと変わりつつある。
風も冷気を纏い出していた。
太陽に照らされなくなった2人は、影の一部になりつつある。それを救ったのは、ベンチのすぐ隣りにある街灯だった。
カチンとなにかが響き、電気が付く。
「帰らないのかい?」
「うん。おじさんは帰らないの?」
ついに“無名”が取られ、ただのおじさんになってしまった。
無名はまた笑う。よく笑う人だなとダイスケは思った。
「僕は帰らないよ。そろそろ移動しなきゃいけないから」
「そっか」
どうやって移動するのか興味が沸く。が、訊いても答えてくれないのだと、自然に悟った。
「ダイスケ君は、魔術師だね?」
「うん」
素直に認める。隠す必要はなかった。
「魔術師かあ……」
どこを見たのかわからない。
無名は目を細めていた。瞳が光ったような気もするが、一瞬だったから確信はない。
「優秀だね」
鳥肌がたった。
ほかの大人と同じことを言われ、寒気がした。
「さっきから君を覆っているのは……防寒魔術かな?
自分の周りに膜を作って、一定の温かさを保つ魔術だ。
間違っているかい?」
ダイスケは首を横に振る。
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