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「まだ小さいのに、長い時間魔術を維持出来るのは素晴らしいことだよ。
将来立派な魔術師になれる」
「ならないよ」
膜が、破れた。自分で破った。
冷たい空気がダイスケの肌に触れる。生理的に体が震えた。
「魔術師にならない。絶対ならない」
「なぜ?」
無名はゆっくりと問う。触れていいのか迷った末の質問だった。
「魔術師が嫌い。だからならない」
「なるほど」
「なんで魔術師に生まれたら魔術師にならなきゃいけないのかな」
ダイスケの口調は、明らかに怒りに満ちていた。
表情に出ないだけわかりにくいが、心の中は燃え上がっているに違いない。無名は思う。
「魔術師に生まれたから魔術師になるのは、おかしいと思う」
「そうだね」
「……わかるの?」
始めてだった。自分の意見を理解してくれた人は。
今まで全員こんなこと言えば「間違ってる」だの「狂ってる」だの五月蠅かったのに。
「わかるよ。僕も考えたことがある。
恐らく、ダイスケ君のお父さんもお母さんも考えたことがあるよ」
そんなわけない。そう思ったが、口から出たとは違う言葉だった。
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