4805人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、なんで変わらないの?」
「難しいから」
無名が、今まで見せた中で一番優しい笑顔を見せる。
「難しいんだ。その考えは。言うのは簡単だけど」
「どうして?」
「例えばさ。
猫が成長して犬になったり、人が将来、鳥かライオンになりたいって思うことはどう思う?」
「へん」
「うん。変なんだよ。おかしなことなんだよ。
つまり、そういうわけさ」
「……わからない」
「今の話、猫を魔術師に、犬を……そうだな……神様に直すと、猫が犬になることは、魔術師が神様になることと同じことなんだ。
魔術師が超能力者や異世界人になることは、人が鳥かライオンになるかを決めているようなものなんだ。
わかるかい?」
「…………うん」
分かりたくなかったが、分かってしまった。
頷きたくなかったが、頷くしかなかった。
泣きたくなった。泣けなかった。
「でも、その考えは捨てないほうがいいよ。
きっと将来役に立つ」
「…………」
「子どものころに感じたことは、成長していくとどんどん無くなっていく。
でも、大事なことは大抵子どものころに経験するんだ。
だから、今感じたことは、きちんと覚えておくんだよ。
……口には出さないほうがいいけど」
無名がなにを言いたいのか、ダイスケはちゃんと理解出来なかった。
でも、首を縦に振った。
耳鳴りは、少しだけ大きくなったような気がする。
最初のコメントを投稿しよう!