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やはり、目覚ましを変えたほうがいいかもしれない。
起きるのが苦手な自分が、ここまで綺麗に起きられるのは有り難いが、毎日毎日寿命を縮めている気がしてならない。
体のダメージも半端ない。心臓は朝からバクバク連打するし、寝る前はあの音で起きるのだと言い聞かせる必要がある。
今日はさらに酷い。まだ耳に電子音が残っている。
起きてから30分以上立つ今でも続いているということは、病院に行くべきだろうか。
そんなことを思いながら、少年は朝食を取った。
カチャカチャと、陶器にフォークが当たる音がする。
そのほかにする音と言えば、テレビから聞こえてくる声だけ。ほかに音は無い。
2つの音は硬く、そして冷たい。
温かくない音は、普段なら交わることない静寂と溶け合って、部屋を一掃淋しいものに作り変えていた。
少年もまた、部屋の一部になっている。
表情なく朝食を食べ続け、ほかのことには見向きもしない。
せっかく点けたテレビにも背を向けている。
やがて、朝食を食べ終える。
早食いしたため満腹感は感じられなかったが、腹になにか入ったという感覚はあった。
少年は布巾で口を拭い、立ち上がる。食器を流しに置くとテレビを消した。
広い家だった。
それでいて、綺麗な部屋だった。
家中どこを見ても片付けられており、ゴミ箱も空っぽ。
本は背の順で本棚に収まっているし、食器は見栄えも考慮され、色ごと大きさごとに棚に重ねられている。
片付けるという言葉を知らない母親と、父親なので、腕のいい家政婦を雇った結果だ。
それが自分に遺伝しなかったことが少し残念なような、嬉しいような気がする。
少年は一度部屋を見渡し、異変がないとわかると、鞄を持って家を出た。
学校に向かった。
まだ、耳に電子音は、残っている。
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