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学校に着いたとき、お日様は、まだ低い位置にいた。
学校で給食を食べていたとき、お日様は、てっぺんを少し過ぎた位置にいた。
そして帰るとき、お日様は、また、低い位置にいた。
学校から音楽が流れて来る。夕焼けこやけの音楽だ。
オルゴールの優しい音色が生徒達の背中を押す。
その少年も例外ではなかったが、少年の足は中々前に進まなかった。
それでも段々押し出され、学校を追い出される。
少年はしばし校門で立ちすくんだあと、ゆっくりと歩き出した。
家とは真逆の方角だった。
いつからだろう。家に帰りたくなくなったのは。
学校が終わってもすぐには帰らず、ぶらぶらと時間を潰して帰る。
家には戻りたくないと思っても、まだ幼い少年がたった一人で生きていくのは無理だ。
仮に生きていこうとしても、周りが許さない。
夜に出歩けば大人に見つかり補導され、かと言って泊まる場所を探しても見つかるわけがない。
結局は帰ることになる。
それが負けてるような気がしてならなかったが、仕方ない。
生きるためには、負けるしかないのだ。
学校を追い出された少年は、ベンチに座って空を眺めていた。
そこは街中に設けられた、小さな休憩スペースだった。
ベンチが1つと水飲み場が1つある、小さなスペース。
朝、犬の散歩の合間に立ち寄る人もいれば、昼にお年寄りが散歩の一休みに使うこともある。
休憩目的なので男女共同トイレはあるものの、遊具はない。そんな場所だった。
少年の頭上を雲が流れる。
動いているのか止まっているのか判断付きにくい速度だが、気がつけば視界から消えているので間違なく動いている。
面白かった。
なにが、と訊かれても答られないが、とにかく面白かった。
口をだらしなく開け、雲と空を眺める。
最近見つけた遊びだ。
暇つぶしになるし、雲は見ていて飽きない。
これで雨が降っていたら完璧だったのだが、贅沢は言えなかった。晴れでも充分楽しめる。
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