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「僕は君をなんと呼べばいい?」
悩んだあげく、出た言葉がそれだった。少年はあんまり変わってないなと思ったが、口には出さなかった。
「ダイスケ」
「ダイスケ……君?」
「そう。それが名前」
ダイスケが笑う。何割かは本心が交じる笑顔。
「偽名でも良かったのに。ダイスケ君は正直だ。
でも、簡単に名前を明かしちゃいけないよ。
僕だから良いものの」
まるで自分が悪人であるはずがないという口調に、ダイスケは噴出してしまった。
面白かった。雲を見るよりずっと面白かった。
「おじさんの名前は?」
「僕かい? 僕は……、残念だけど答えられないんだ」
「どうして?」
「僕はこの世界の人間じゃない。
今、ダイスケ君が生きてる時代とは別の世界から来たんだ」
嬉しそうに話す“誰か”を見て、ダイスケも嬉しくなった。
あとは、この耳鳴りがなければ良かったのに、と心で思う。
電子音は、まだ止まない。
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