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「無名」
「……ムミョウ?」
ダイスケが訊く。“誰か”は肯いた。何度か肯いた。
「ああ。無名。これが僕の名前だ。そうしよう。
だから、ダイスケ君は僕を無名と呼んで」
「無名がおじさんの名前?」
ああそうだ。そう言おうとして、無名は固まった。
ダイスケが首を傾ける。寝たのかと思った。目は開いていたけど。
「そうだよな……“おじさん”と呼ばれても構わないよな……」
固まったままそう言っていた。口も動いていないところを見ると、中々器用な人のようだった。
「無名おじさんはどこから来たの?
別の世界ってどこ?」
質問によって無名がまた起動する。
「それは……ごめんね。言えないんだ。決まりなんだ」
「じゃあ、なんでここに来たの?」
「それも、無理だ。答えられない」
無名の目は悲しそうだった。理由はわからない。
「世界や時間の移動は規則が厳しくてね。答えられることはほんの少しなんだ。
僕がこの世界の人間じゃないって話すのも、けっこうギリギリなんだよ。ほんとは。
だから、悪く思わないでね」
無名がダイスケの頭に手を置いた。
逃げようと思ったが、止めた。この人になら誘拐されてもいいと思っていた。
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