私とフラッグ

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目の前に立てられた旗。 私はそこまで辿り着かなきゃいけないらしい。 直線距離にして、一メートル。近い、けど。 毎日日記を書いている。内容は今日あった出来事。でも、可愛らしい書き方はしていない。 七時、目を覚まして、暫くそこでボーっとしていた。 八時、遅れたワイドショーを見ながら、冷めたご飯を食べていた。 そんな感じで、それを永遠と。 前の前に立てられた旗は、私がどこに行ってもついて来る。直線距離1メートルを保ちながら。 旗には何かが書いてある。眼鏡を掛けてみようとした。何故だかぼやけて見えなかった。 夕方は私と同じくらいの学生が、制服を着たまま遊んでいる。時折煙草をふかした者もいながら、それでもみんなは楽しそうだ。自分がそれを見て嗤っているのを知りもしないで。 窓から見た景色はいつも綺麗だ。まるでどこかのシュミレーションゲームをしている感覚。システム化した毎日。変わらない絶対と言う美しさ。楽しさなんて一片も窺えないけど。 ある日目の前の旗は言った。旗が喋るなんてオカシイけど。旗の名はフラッグと言うらしい。ひどく安直だ。彼は私の全てを分かったような言い方をして、白々しい言葉をつらつら並べた。しかし彼の言葉は時折胸を付いて、私の心をカッとさせた。 私は思わずテーブルの上にあったライターを彼に投げた。 ライターの火は彼に移り、勢いよく炎を上げた。炎上し続けるフラッグはとても綺麗だった。 フラッグは声を上げる事が出来る筈なのに、彼は不思議と黙ったまま炎上し続けた。黙ったまま炎上し続ける姿が、炎の美しさをより引き立たせた。 ふと、フラッグは私に向けて笑った気がした。フラッグには表情というものは存在しない筈なのに。現に、今目の前で炎上し続けるフラッグには顔はないし。 でも、彼は私に向けて笑った気がした。 炎上し続けたフラッグは、とうとう黒い煤だけ残して燃え散った。その時の私は、何か心に穴が開いたようだった。 でも、私は相変わらずいつもの様に日記を書くし、外を見ては嗤っていると思う。
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