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「ふふ、これで思い残すことも無いよ」
「何言ってんだ! 大丈夫。なんとかのりきってみせる」
俺はひたすらにユキネの身体に冷却剤を振りかけ、いたるところにヒエピタを張る。ただの時間稼ぎだってことはわかっている。でも、どうにかしないとならない。じゃないと、ユキネは永久に消えてしまう。
しかし、オレの手に握られた最後の手段は無情にもスカッという虚しい音をたて、その役割を終えてしまった。
「……冷却剤も終わっちまった」
最早ヒエピタも氷すら無意味となったユキネの身体は、まるで真夏にフルマラソンをしたかのようにすぶ濡れで、それを拭うオレの手を無言で首を振り制止させた。
オレの腕の中で、息も絶え絶え問うユキネはゆっくりと窓を指す。
もう、雪は霙どころか雨となってしまった。
「ここまでなのか?」
ユキネは小さく頷き、にこりとオレに微笑むと、オレの腕に手を添えた。
「冷たくてごめんね。後、少しだけだから」
どんどん小さくなっていくユキネの身体は、オレの体温でその速度を増していた。最早手の打ちようがないのだから、オレがやるべきことは、ユキネの願いを最後まで叶えてやることだけ。
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