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理紀の方に目を向けると、イシュタルとファルシオンで斬り結んでいる中近東風の美形執事の姿が見える。
彼の名はヒース。
残酷幼女王のアルラウネが唯一心を開いている忠実な執事である。
「理紀さん、此所は私達に任せて下さい。貴女方の役割はあくまで後方で敵の侵入に備える事。近接戦は私達やあの野獣と淫魔の役割です」
野獣と淫魔の言葉を口にする時、ヒースは少々顔に嫌悪感を表してしまった。
あの品性の欠片も無い男は自分の主人を馬鹿にしたし、意思の疎通すら取れない淫乱女は自分を襲おうとした。
彼がこの二人を好きになれる理由は何処にも無かった。
まだあの底知れぬ力を持つ魔女の方がコミュニケーションが取れる。
そして背中にいる理紀は一番話が分かる常識人だった。
それ故に、誰も味方のいないこの異世界で彼女の様な頼れる人物を失う訳にはいかなかった。
私達は帰らなければならない。
私達を拒絶したあの世界へと。
異世界の地で身肉を腐らせるより、生まれ故郷の片隅で地に還るべきである。
ヒースはそう思っていた。
その為なら自分は幾らでも戦える。
幾らでも這いつくばる事が出来る。
愛するアルラウネ様の為に。
「…分かった。今は死ぬべき時では無いぞ?私も…お前もな」
ナイフを鞘に納めて撤退の準備を図る理紀。
「分かってます」
「フ…じゃあな」
微笑を浮かべて理紀は去っていった。
無論ジュリアンヌは早々に姿を消している。
「邪魔するなっ!私はパパに会いたいだけなのにっ!」
ナイフで斬り込むイシュタル。
だが、肩のダメージが響いている様で斬撃に力強さが無い。
「君には大事な人がいるのですね。けど…私にだって大事な人がいる。終生この身を捧げても惜しくない愛すべき主人が」
ヒースはファルシオンを構える。
「互いに譲れないのなら…力で決着をつけるしかないですね」
ヒースの流麗な剣捌きがイシュタルを襲う。
それはまるで剣舞の様に華麗だった。
「くっ!こ…の…いい加減に…っ!」
「手負いの女豹じゃ私は倒せませんよ」
イシュタルの攻撃を受け流しつつ、要所要所で鋭い斬撃を入れるヒース。
剛と柔の戦い。
今回はヒースに分がある様だった。
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