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藍色の残像を残しながら、疾風と化した少女が野を駆ける。
彼女の両手には大振りのコンバットナイフ。
今まで数多の敵の血で刃を染めてきた業物である。
いや、敵という表現は語弊があるかもしれない。
本来は同胞と呼ばれてもおかしくない存在であるからだ。
プロジェクト・イシュタル。
考古学の権威、冬月教授により発見された古代の生物兵器の遺伝子を用いて、軍用の殺人人形を造ろうという計画。
その初期ロットの100体の内の1体が彼女である。
彼女はNo.93と呼ばれていた。
その彼女が突如離反した。
類い稀なる戦闘能力を用いて次々と同胞の命を奪ったのである。
ただ一人、次元の狭間に消えていったNo.6を除いて、全て彼女によって殲滅した。
そして彼女はプロジェクトの総責任者である福田博士をも手にかけてしまったのである。
全ては一つの想いを叶える為。
「パパ…絶対私が助けてあげる」
彼女は疾走する。
その目的が「刷り込まれた」モノである事を知らずに。
「扉の向こうの世界の深奥にある施設の中にある宝石を奪還せよ。手段は問わぬ。邪魔する者は排除しても構わぬ」
それが飛川天音によって彼女や他のメンバーに与えられたミッションである。
彼女―イシュタルはともかく他のメンバーが何故その様な事に関わる様になったのか。
それは他のメンバーの身内が謎の奇病に罹ったからである。
紅玉腫。
身体の至る所に突如現われたルビーの様な腫瘍は罹患した者に激痛と極端な体力低下をもたらした。
適切な処置を施さなければいずれ衰弱死を迎えてしまう。
そしてそれは手術を用いるにはとても箇所が多すぎた。
原因も不明なので薬物治療も望めない。
体力低下を抑える為の栄養剤投与でどうにか凌いでいる所だが、このままでは日常生活に復帰する事も適わない。
八方塞がりの彼等に手を差し延べたのが飛川博士であった。
「私は治療法を知っている」
そして集められた彼等に開口一番告げたのは普通の人間じゃ信じがたい内容だった。
「此所とは別の世界に存在する、とある宝石を用いればこの腫瘍を取り除く事が出来る」
うさん臭い表情を浮かべる彼等に飛川博士は笑みを浮かべながら言った。
「信じない、は無いわよね?貴方達、普通じゃないじゃない」
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