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理紀は数年前の出来事を振り返る。
十文字市に於ける決して世に大っぴらになる事の無い闘争。
その中で自分と彼女は出会ってしまった。
理紀はアガスティアという地下組織のネゴシエーターである宮本という人物を通じて、この闘争に関わる事となる。
彼女は裏の世界では有名な殺し屋であった。
射撃格闘全てに通じているが中でも狙撃の腕前は国内でも1、2を争うものであった。
その彼女が依頼されたのが市長暗殺。
彼女の腕前からすれば決して難しい仕事では無かった。
ただ、不幸だったのは市長の隣りに侍っていた秘書らしき女性がタダ者では無かったという事。
豊かなルビー色の赤毛を持つスーツ姿の女性。
スコープ越しに彼女と視線が合った時、彼女は指で銃の形を作り、悪戯っぽい笑みを浮かべて引き金を引く真似をした。
「…っああっ!」
紅い光線が指先から発せられ、スコープ越しに理紀の目を焼く。
恐るべき腕前、と語る前にとても人の技とは思えない。
理紀はスナイプの失敗を悟り、現場から直ちに撤退を図る。
だが光線に網膜を焼かれて思う様に逃走出来ない。
「ウフ、やんちゃな子猫ちゃんが市長さんにおイタするトコでしたわ。ちょっと捕まえて躾しなきゃ」
スーツ姿の女性は理紀を追う為に車から降りた。
そして空を舞うが如く、ビルの狭間を駆け上がっていく。
彼女はこの時ユリアンヌと名乗っていた。
別名魔弾の射手。
十文字市、そして神名村に於ける数々の事象を裏より操ってきた組織、O∵O∵O(Only One Order)通称トリプルオーの要請により派遣された人外の暗殺者であり、禁忌魔術の叡智の一つの精華であるリビングドールの初期ロット三体の内の一体であった。
「逃がしはしないわ。たあっぷり弄ってあげる」
獲物を嬲る獣の様な笑みを浮かべて追うユリアンヌ。
「…足を止めて近接戦で殺り合うか…」
どうせ逃げ切れないのなら。
そういう考えも浮かび逡巡する理紀。
そんな理紀の脳裏に男性の声が響く。
『それはいけない。そのまま逃走を続けて貰いたい。追手の足は私達が止める』
念話?
理紀が初めて体感する不可思議な現象。
だが、長年の殺し屋生活がこの言葉は信ずるに当たる、と感じさせた。
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