3人が本棚に入れています
本棚に追加
「…信じよう。お前が何処の誰かは分からないがな」
『流石六波羅理紀さん。話が早くて助かる。では頼んだよ、小鳥遊君』
念話はビルの挾間に立つ一人の女性に伝わった。
「…ったく、赤松のヤツ、か弱い美大生を荒事に駆り出すんじゃないっての!」
そう言いながらも彼女は手の中にあるモノを握り締めて念を込める。
「禍福…吉凶はこの世の因果…何人たりともこの事象より逃れ得る者無し」
そして彼女は握り締めたダイスを振った。
「Have A Bad Luck!」
彼女が元より持っていた悪運の強さを赤松の所属する組織の導きで魔法の域まで高めた、ある意味恐るべき能力。
この世界に属する全てのモノの吉凶を一日三回だけ操る事が出来る能力。
それが自称か弱い美大生、小鳥遊真琴の能力だった。
ユリアンヌが踏んだ足場が「急に」崩れさる。
「な…っ!?」
体制を整えながら着地するユリアンヌの眼前に車が迫る。
慌てて避けたユリアンヌの足元のマンホールの蓋が「偶然」空いていて、穴に落ちる。
まるでコントの様な凶事の連続。
とうとうユリアンヌは理紀を捕まえる事が叶わなかった。
「お、覚えてらっしゃい!この屈辱…倍返しにしてあげるわっ!」
泥まみれの姿で爪を噛みながら悔しがるユリアンヌであった。
理紀はとある病院に連れられていた。
四井病院。
表向きはごく一般の総合病院である。
だが、裏ではアガスティアのスポンサーの一つであり、訳有りの病人を診てくれる場所でもあった。
「手術しなきゃダメね…」
何処か腹黒い印象を与える白衣の美女。
彼女の名は四井涼香。
この病院の理事長の娘であり、アガスティアとは別に活動しているレジスタンスのリーダーの恋人でもある。
かなり嫉妬深い性格でもあった。
「…治せるのか?」
「治すのは簡単よ。網膜なんて非合法的に入手出来るもの。通常の患者さんと違って何年も待たずに手術出来るわ。ま、それなりのモノは頂くけどね」
腕を組んで黒い笑みを浮かべる涼香。
「けど…暫くは違和感は出て来ると思う。慣れるまで前の様なスナイプは出来ないと思うわ」
「…構わないさ。全く見えなくなるよりはマシさ」
そう言って理紀はベッドに身体を横たえた。
最初のコメントを投稿しよう!