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  まず容姿だ。 校則で許されているかどうか不安になるほど長い、腰までの艶やかな黒髪に誰もが思わず目を止める。 やや切れ長の目は新入生全体を見ているにも関わらず、自分にのみ向けられているような魅惑を黒の瞳に内包している。 整った鼻梁から口元に目は進み、そして制服に覆われた体全体へ向かって俺は見入ってしまっていた。 張りのいい肌。 健康体そのものの血色。 女子にしては高い身長。 一切の無駄な贅肉のない理想の体型。 何より自己の絶対的自信に満ちた声が、凛として朗々と流れる音が人心を捕らえる。 十六歳、いやまだ十五だったな。 森林森楽は美少女、ではなく美女だった。 外見に劣らず、実力もずば抜けていた。 一年生で初めて受けた全国模試。 手始めにアイツはそれで一位となった。 しかも全教科満点だったらしい。 本来自分の弱点を見極めるための多角形グラフが、見事な正多角形になっていた。 当然高校の授業が始まったばかりなのだし高得点を取るのが難しいわけではない。 俺だって平均八十五はあった。 そのゆえの油断による転落もあったけど。 伝聞なのが少し悔しいが、ただ驚きなのは森林森楽は各教科を毎回、開始二十分で終わらせたということだ。 いちおう俺、あの模試は時間ギリギリまで悩んでたんだけどな……。 その他のテストでも満点。 ときおり一点や二点はミスをするが、逆に人間らしさが垣間見えてポイントが高い。 運動能力に関してはあーそうだな、体育祭の最終リレーでアンカーの手前を務めたと言えば、その健脚ぶりがうかがえるだろう。 “完璧” 周りは森林森楽をそう呼ぶ。 美貌。 学力。 運動。 あとは――人格。  
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