袖掴むは多大な縁

4/7
前へ
/53ページ
次へ
二ノ介は釣銭口から素早く五十円玉二枚を取る。  「帰らせてもらう」 「ちょ、ちょっと!」 きびすを反した二ノ介の腕に私はしがみ付く。  「待ちなさい!私の五十円!返しなさいよ!」 「これは昨日貸した分として返してもらう」 「噛むわよ!放さないと指を噛むから!ニンニク臭の歯形とヨダレが指についてもいいの!?」 二ノ介は目を剥く。 「ちょっと待て!たかだか五十円だろ?そこまでするか!?」 「女子高生は五十円のためなら噛みつくのよ!いいの!?きっと高校生活ワースト3位ぐらいの嫌な記憶になるわよ!」 「いや・・・・・間違いなくワースト1位だろ?」 「だったら放しなさいよ!」 二ノ介はしばらく抵抗を続けていたが、やがて「わかった」と力を抜き、溜め息をついた。  「たかだか五十円のために・・・・この歳で・・・・これ以上女性に失望しなくねえ。手を出せ」 私が手の平を差し出すと、二ノ介は五十円玉二枚を乗せた。 「全部くれるの?」 「ああ」 私は二ノ介の気が変わらないうちに、硬貨をかたく握り締める。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3083人が本棚に入れています
本棚に追加