四章 願い

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「……オレだけに捕われないでくれ、俊哉……」 公平は、 真っ直ぐにオレの目を見てそう言った。  「…何で、そんな事言うんだよ…」 ……やりきれなくもなるだろ。 愛の告白の返事が、 精一杯、 愛の形を表した事への答えが、 こんな言葉だなんて………。 「………オレの気持ちは、迷惑だって事か…?こんな風にぶつけられても、迷惑だからって、だから、オレから、離れて行けって、そういう事かよ……」 ……あぁ、もう、 口を突いて出てくるのは、 本意じゃない、こんなネガティブな言葉ばかりだ……。 「………そうじゃない」 公平が言った。  何で分からないんだ、と、 そんなの当たり前だろ、と、 まるで、聞き分けのない子供を諭すような前置きをした後、  「……オレは、お前の前からいなくなるかもしれない人間だから……」 ……それは、 知的な公平らしくなく、 すごく漠然と、 抽象的な表現の仕方だったけど、  “いなくなる” の意味は、 わざわざ聞き返さなくても、 分かりすぎる程に分かった。
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