四章 願い

15/65
前へ
/488ページ
次へ
………ギィ…  ………誰が中にいるんだ……? 体育館の重い鉄製の扉をそぅっと押し開けて、ほんのわずかに出来た隙間から中を覗くと、 そこに、 真剣な眼差しでゴールリングを睨む仁がいた。  仁は、 ボールを構えたその手をすっと斜め前に伸ばして、 まるで、 舞い上がる、みたいなキレイなフォームでゴールにシュートした。 …………。 …本当に本当に、 ビデオのスローモーションを見ているように、仁の身体がふわりと宙に浮いているように、オレには見えて。 思わず、しばらくその姿を見ていた。…“見入る”って、多分こういう事を言うんだと思う。 今さら実感する事じゃないけど、仁は、実は運動神経がかなりいい。  普段のあの、のほほんとした姿からは想像出来ないような俊敏な動きを、オレは、同じコートの中で何度も見た。 でも、今のは、 “俊敏”っていうよりもっと、 何ていうのか…………。 「……あれ?俊哉くん!?どうしたの!?」 “誰かさん”をマネるワケじゃないけど、今の、仁のあの素晴らしい姿に当てはまる、何か上手く的確な表現を探していると………  オレの姿に気が付いた仁が、 コイツ独特のすっとんきょうな声を上げて走り寄って来た。 
/488ページ

最初のコメントを投稿しよう!

279人が本棚に入れています
本棚に追加