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ガラス一枚で隔てられた部屋の外の風景が、自分とはまるで無関係な流れ方をしているのを、美雨はおもしろく感じる。
雨の午後の、この気だるさはなんだろう?
時間が止まったような、古い喫茶店の空調からは、なんとも言えないかび臭い匂いがしていた。
美雨は手元のコーヒーカップを見つめる。
冷めて味も匂いもとんだコーヒーは、表の水溜まりと同じ色だ。
無意識に鞄に手を入れ、携帯を引き出す。着信の表示はない。
コーヒーに口をつけ、ただ苦いだけの水を飲むと、美雨の口から、ため息のような言葉が漏れた。
わたしみたいな、味。
目線を外にうつすと、外気に冷やされ曇りだしたガラスに、つまらなそうな女の顔が見えた。
あなたは、誰?
美雨はコートを掴むと、すっかり沈み込み、自分の体の跡が残されたソファーから立ち上がった。
こんなことはしていられない。
伝票と一緒に、投げるようにレジにお金をおく。まるで汚れたゴミを捨てるように、お釣りも受け取らず雨の街に出た。
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