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「いらっしゃいませー」
数人の、甲高い女性の声がエコーがかかったように響く。耳障りだ。
「予約した木村美雨です」
「お待ちしておりました。朝岡をご指名ですね?」
「ええ……よろしく。」
「朝岡が参ります前に、個室にご案内させていただきますねー」
高いテンションと、語尾をのばすしゃべり方か、美雨には馴染めない。
思わずまじまじと相手の観察をはじめてしまう。
『人』だと思わずに、相手を眺めるのが好きだ。
その人の私生活が滲み出ていて、それはどんなに隠そうとしても、動作の端々や単語の選び方一つひとつに現れる。
美雨が相手の顔をじっと見てしまうのは、純粋に『眺めたい』興味なのだが、大抵は何か粗相があったのかと、怯む。
今日もそうだ。
「担当がすぐ参りますので」
ハーブティを置くと、そそくさと部屋を出ていった。
個室の窓には、強くなった雨が風とともに吹き付けられてくる。BGMの低く流れる個室の椅子はフカフカで、目を閉じると、そのまま海の底に沈んでいるような、満たされた気分になる。
眠りたい
このままずっと、ここで、フカフカのソファーに埋もれてもいいな。脳みそがマシュマロみたいに溶け出して、わたしがソファーの一部になって、その事に誰も気づかなければいいのに。
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