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あれはたしか……ゲストだ。どっかの大学だか、なんかの踊りのサークルがこの中学校に迎えられたとか。そんな話を聞いた気がする。
舞台には五人の人達がいた。
左側で男の人が一人、床の小太鼓を胡坐で挟み叩いている。手が夕立の如く降り、太鼓の咆哮をリズムよく操っていた。
時に低音だと思えば、時に高音へ変わり、それは俺の心をいとも簡単に魅了した。
――唐突に、芯の強い女の人の歌声。そして、歯切れの良い高音のギターが稲妻のように加わった。
さっきまで春の陽気だった世界は、夏を迎えたように暑く煮えたぎる。
俺の頭では、安定した太鼓が夏の輝く草原を感じさせ、洋風の歌声が強い日差しを作り、そしてキレの良いギターが虫の鳴き声を見事に出来上がらせていた。
一瞬で俺は、夏を味わった――かと思えば。
舞台の中央には、黒と赤のドレスを纏う女性がいた。ドレスの裾を持ち上げると、キリンのように伸びた綺麗な足が現れる。
そして、女の人は夏の世界で踊り始めた。床を打つ足音は軽快に、広げる両腕は孔雀のごとく艶やかに。
俺は優雅に踊るその女性に、夏の夕焼けを見た。
日差しは正午よりも色濃くなり、風の吹く草原を赤く染め、けたたましい虫の声をより縁取る。そんな、情熱的な夏の夕暮れ。
青々とした草の匂いまで確かに、その太鼓は、歌声は、ギターは、踊りは――俺の脳に表した。
女性の踊りは、激しいものから段々と抑えられていく。俺の鼓動をあれだけ跳ね上がらせた太鼓も、落ち着いた音で世界の調子を整える。
そして、太陽のようだった歌声は、今や月明かりのごとく艶やかでしっとりとした音色に変わっていた。そして一際響く、ギターの歌声。
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