第一幕

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   そう、これは、夜だ。  世界が、夜になった。  辺りは暗く、日中の暑さを忘れた草原が、ただ涼しい風に流れる。晩夏にさしかかった草原の奥からは、蝉の声に混じり、ぽつぽつと鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえてきた。  そうだ、これが、夏だ。暑いだけじゃなく、この夕涼みこそが、しみじみと香る虫の声こそが、夏の醍醐味じゃないか……。  俺は、夏を、味わった。  月光と虫の音は、俺の中でいつまでも映え続けた。  ――こんな音響、聴いたことがない。音で景色なんて、見たことがなかった。今までダンスなんて、全く興味を持たずに過ごしてきた自分が、情けない。  ダイナミックで、綺麗で、余りにも魅力的な姿が、自分とは遠くに在った。知らなかった自分が、本当に、小さく狭く思える。  いつの間にか、手が奮えていた。そして、熱くなる目頭。湧いてくる涙が、抑え切れなかった。  ――これは、何なんだ?  流れる涙を拭い、ゆっくりと、焦点を舞台の上にある看板に移す。そこには、やたら古風で、しかも華々しさを感じさせる、大きな五文字があった。  片仮名で。 【フラメンコ】
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