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そんなのはただの私のワガママかもしれない。
でも、この幸せな時間を一時でも手放したくない。
朝食を食べ終わりのんびりと外を眺めていると、海斗の携帯が静かな部屋に響いた。
急いで携帯を開く海斗に胸騒ぎを覚える。
「もしもし?…ああ、どうなった?」
ドキドキしつつ海斗の顔を見つめた。
すると、みるみるうちに顔が険しくなっていく。
「なんだってそんな事に…先方はなんて?………チッ…いや、分かった。気にするな。ああ、じゃあな。」
苛立ったみたく電話を切り、海斗が片手で目を覆った。
「……はー…」
深く長いため息がやたらと大きく聞こえる。
やがて腕を下ろし海斗が私の頬に指先で触れた。
「…すまない遊里。ちょっと厄介なトラブルが…会社に戻らないとならなくなった。」
「……」
予想はしていたものの、胸の奥がズキンと痛む。
「や、やだ。」
「遊里…」
「だって…絵画展は?二人っきりの旅行は?」
自分でもひどいワガママだと思う。
だけど何故か耐えられなかった。
「遊里、絵画展は明日行こう。聞き分けてくれ。」
「っ…絵画展は今日までだって言ったじゃない!!!」
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