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「…分かった、じゃあ次にあの画家の絵画展をやる美術館を調べて…」
「今日が良いの!」
私が大きな声を出すと、海斗が深くため息をつく。
その音がやけに大きく聞こえた。
……面倒だって、思ってる。
遊里は子供みたいだって、そう思ってるんだ。
頭が沸騰するように熱い。
恥ずかしさと、どうにもならない自分のワガママに泣き出したくなった。
「遊里、本当に大事な件なんだ…頼むから…」
「なんで!?こんな所にまで仕事の書類なんか持ってきて…海斗は私と仕事どっちが――――」
そこまで言ってハッとする。
口を閉ざした私に、海斗が不思議そうな顔をした。
「遊里?」
「…行ってくれば?」
「遊里、ちゃんと話しを…」
「海斗のバカ!もう知らない!!」
旅館の裏庭はとても美しかった。
部屋の窓から見えた庭も素晴らしかったが、色とりどりの花が咲き誇る裏庭の方が今は心が落ち着く。
桜の木の下まで行くと、後悔が次々と押し寄せてきた。
……何やってるの、私。
これじゃあ中国の時と同じじゃない。
むしろ今回の方がひどい。
あの時、何て言おうとした?
『私と仕事どっちが大切なの?』
私は確かにそう言いかけた。
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