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それは言ってはいけない事だと分かっていたのに。
海斗ほど私と子供達を大切にしてくれる人なんていない。
仕事と家族なんて、比較する対象になるわけがないんだ。
本当に…最低なワガママ…。
頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
その時。
首から下げていた携帯電話が鳴った。
…この着信音は…。
一瞬躊躇してからゆっくりと携帯を開く。
表示されたメールを見て、目頭が熱くなった。
『遊里、本当にすまない。早く終わらせて、美術館が閉まる前に必ず帰ってくる。俺もお前の好きな絵を一緒に見たい。俺の一番大切なものは、お前がくれる幸せ全てだ。行ってくる。』
「っ…ほんと、何やってんのっ…私のバカ!」
私の涙が携帯の画面を濡らす。
どうしてあんなワガママを言ってしまったの。
何故笑顔で送り出してあげられなかったの。
言ってしまった事は取り返しがつかない。
だからこそもっと大切に言葉を口にしなければならないのに。
後悔してる場合じゃない。
グッと涙を拭って、桜の木を見上げた。
笑顔でお出迎えをする。
ちゃんと謝って仲直りする。
桜の木に誓うように、何度も心の中で呟いた。
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