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お見合いの時間が近づいていた。
すっかり夕焼け色に染まった倉庫内では、ぼんやりとお互いの輪郭が分かる程度だ。
相変わらず俯いたままの早苗と、そわそわと落ち着かない様子の優。
海斗はただぼんやりと前を見つめ、その隣りで私は海斗の手を握り締めていた。
それに応えるように手が握り返される。
…本当にこんな事をして良いのだろうか。
早苗の母親だけではなく、見合い相手やその親までも騙す事になる。
言いようのない不安と罪悪感が私の中を満たしていた。
「…そろそろ時間だ。遊里さん、行きましょう。」
優の声に肩がビクつく。
躊躇いつつも立ち上がり、握っていた海斗の手をそっと離した。
しかし、海斗は私の手を離そうとしない。
「…海斗?」
「こっちに顔を。」
そう言われ、海斗に顔を近づける。
すると、いきなり唇を塞がれた。
「ん…」
海斗の舌が唇を押し開き、口内にまで侵入してくる。
その光景を優と早苗が真っ赤になりながら見ているのが目の端に映った。
「っ…」
唇を離すと、海斗が優しく微笑む。
「…何かあったら俺を呼べ。命に代えても助けに行く。」
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