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「海斗…」
その声の真剣な響きに胸が熱くなった。
海斗の瞳が私を安心させてくれる。
ただ見つめあっただけで、キスを交わしただけで。
一気に心が落ち着いていくのが分かった。
「…ただのお見合いなんだ。なんかあるわけないでしょう?さあ、遊里さん。」
まだ頬がほのかに赤いまま、優が倉庫の扉を開ける。
「…海斗、帰って来たら、温泉…二人で入ろうね。」
「…ああ。」
自分の愛しい人のキレイな髪に指先で触れ、ゆっくりと歩き出す。
…さっさと終わらせて帰るんだ。
ぐっと拳を握りしめ、私はただ前だけを見据えた。
「遅いですよ、早苗。」
見合いが行われる小宴会場に入った途端、穏やかな声でキツイ言葉が投げかけられる。
え…だってまだお見合いの時間の15分前…。
動揺しつつ声の主を見ると、着物を美しく着こなした中年の女性と目が合った。
一目で分かった。
……早苗の母親だ。
さすが華道の家元だけあって一般の人とは雰囲気からして違う。
…確かに、厳しそうな人かも。
そんな事を思いつつ「すみません」と言いながら足を踏み出した。
座布団に座ってよくよく見るともう見合いの出席者は全員揃っているようだ。
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