温泉旅行に見合いはつきもの!?

8/13
前へ
/79ページ
次へ
丁寧に作られた、作り物の笑顔。 じゃあ、何故作り笑顔をしなければならないのか。 それは…。 自分の本心を隠す為…? 自然と歯を食いしばり膝の横の床に両手をつく。 …逃げなきゃ。 この人は危険だ。 私の普段は鈍い勘がそう訴えている。 いつでも立ち上がれるようにして、再び口を開いた。 「…冗談ではなくて…本当にお付き合いしてる方がいるんです。ですからどうか…このお話しはなかった事に…。」 声が震えて上擦る。 笑顔のままの彼の瞳は少しも笑っていなかった。 それどころかむしろ、狂気に満ちた光すら宿している気がする。 「すみません、そういう事ですので私はこれでっ!!!」 早口で言い素早く立ち上がった時だった。 「痛っ…!」 私の二の腕に強い力で何かがめり込む。 「離し…離して下さっ…いっ!」 米沢さんの指が食い込んでいる。 痛みに顔を歪めながらもその手を振り払おうと身をよじった。 「…離しませんよ?先程も言ったでしょう。僕はね、あなたに一目惚れをしてこの縁談を持ち込んだんだ。僕以外の男を選ぶだなんて…許せないな。」 笑顔だった彼の顔が恐ろしい表情に変わっていく。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5612人が本棚に入れています
本棚に追加