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丁寧に作られた、作り物の笑顔。
じゃあ、何故作り笑顔をしなければならないのか。
それは…。
自分の本心を隠す為…?
自然と歯を食いしばり膝の横の床に両手をつく。
…逃げなきゃ。
この人は危険だ。
私の普段は鈍い勘がそう訴えている。
いつでも立ち上がれるようにして、再び口を開いた。
「…冗談ではなくて…本当にお付き合いしてる方がいるんです。ですからどうか…このお話しはなかった事に…。」
声が震えて上擦る。
笑顔のままの彼の瞳は少しも笑っていなかった。
それどころかむしろ、狂気に満ちた光すら宿している気がする。
「すみません、そういう事ですので私はこれでっ!!!」
早口で言い素早く立ち上がった時だった。
「痛っ…!」
私の二の腕に強い力で何かがめり込む。
「離し…離して下さっ…いっ!」
米沢さんの指が食い込んでいる。
痛みに顔を歪めながらもその手を振り払おうと身をよじった。
「…離しませんよ?先程も言ったでしょう。僕はね、あなたに一目惚れをしてこの縁談を持ち込んだんだ。僕以外の男を選ぶだなんて…許せないな。」
笑顔だった彼の顔が恐ろしい表情に変わっていく。
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