温泉旅行に涙はつきもの

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「ん…うっ…」 早苗と優が呆然としていたその時。 苦しそうな声がして、早苗は遊里の顔を覗き込んだ。 「…遊里さん?遊里さん!聞こえますか!?」 大きな声で叫び、遊里の頬を叩く。 優も同じように名前を呼ぶと、痛みに眉を寄せながらその大きな瞳が開かれた。 「…」 「遊里さん…良かった!!」 安堵して早苗の瞳から涙が零れる。 遊里は一瞬怯えた瞳をしてからゆっくりと顔を動かした。 その瞳に海斗の背中を捉えようやく静かに息を吐く。 「良かった…海斗、やっぱり来て…くれたのね。信じてた。…絶対、来てくれる…って。私を…助けてくれるって…。」 か細く震える遊里の声が、海斗の耳に微かに届いた。 海斗の目が見開かれ、涙が次々と溢れ出る。 …自分は間に合ったのか。 いや、これが間に合ったと言えるはずがない。 遊里の怪我を見た瞬間、遅かったのだと体中の血が煮えたぎった。 俺が止めておけば良かったのだ。 方法はもっとたくさんあったはずなのに…。 涙を流したままゆっくりと立ち上がり、海斗は遊里の顔の横に膝をついた。
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